第12話 夜空の場合 芦野信司(絵も)

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 沢野夜空  40歳
 沢野星也  夜空の双子の兄
 杉本絵里子 47歳
 杉本久枝  76歳(絵里子の義母)
 杉本浩一 79歳(絵里子の義父)

 レースのカーテンを通して夏の朝の日差しが窓辺の椅子に差し掛かる。夜空はその椅子に自分の部屋から運んできた大型の手提げ紙袋を置いて、中から最近集め出した巾着のコレクションを兄の星也に見せようとキッチンテーブルに並べた。駅近くにある「手作りボックス」というレンタルボックスで売っているものだ。夜空は40歳になるが、長い髪を後ろで一つにまとめ紅ひとつつけていない顔は少女めいている。
 星也はキッチンテーブルの反対側の椅子に座っている。ペットボトルの冷えたお茶を飲みながら視線をテーブルの上に走らせた。
「これを作っている人に会った事ある?」と星也が聞く。
「ないです」
 夜空は星也がなぜそんなことを聞くのかが分からない。夜空の興味を引くのは巾着であって、それを作っている人とは全く関係のない事だと思う。
 星也は、仕事で行っていたロンドンから帰ってきたばかりで疲れた顔をしている。
「シャワー使って、一眠りするから。朝食はいらない」
 星也はバスルームに向かった。

「星と夜空は切っても切れない仲だろう。星のない夜空なんてないし、夜空のない星なんてない。それは俺たちが双子で生まれたとき決められた関係なんだよ。だから心配するな。俺はおまえとずっと一緒にいるから」
 星也が病院のベッドの枕元で夜空にささやいたのは、18歳の誕生日から1週間が過ぎた日だった。
 18歳の誕生日の朝、「おめでとう」の文字が書かれたホールケーキを残して母はいなくなった。しかし、星也も夜空も驚かなかった。第一前夜も母はいなかった。夜の店に勤めていた母が二日ほど留守にすることがたまにあった。寝ている間にケーキだけ届けてまた出かけたのだろうと思っていた。
 星也は星也で、あまり家に帰ってこない。母が置いていったケーキを一かけら、朝食代わりに食べた後は「あとは夜空にやるよ」と言って出かけてしまった。星也は友人の家やバイト先に泊まって、1週間後に家に戻って来た。
 夜空はベッドに横たわっていた。痩せていた。瞼を明けてもぼんやりした光しかささない目で笑った。
「おかあさん戻ってこないし、冷蔵庫に何もなかったので、おなかすいちゃった」
 星也は救急車を呼んで、病院に運んだ。
「点滴を打って、一晩入院しましょう。そうすれば、回復しますよ」医師はそう言った。
「俺がもっと早く帰ればよかったんだ。ごめんよ。もう何処へもいかないから」
 星也は夜空の枕元で言ったのだった。

 星也は自室に入ったきり静かになった。もう寝てしまったようだ。夜空は、星也が家に帰って来しなにゴミ箱に脱ぎ捨ててしまったシャツが気になっていた。見るからに高級そうなシャツを無造作に捨ててしまったのである。夜空は、ゴミ箱からこわごわそのシャツをつまみ上げた。オーデコロンの香に混じって汗の臭いがかすかにただよう。生地の織り方がきれいで上品な感じがした。しかし、不思議なのは左胸のポケットの下と袖口に刺繍された「Genjirou」というネームである。夜空は、汚らわしいものでも見たように顔をしかめて、シャツをゴミ箱に押し込め、流しに走った。蛇口を開き、手指をごしごし洗った。
 星也の財布はいつも膨らんでいて、金払いがいい。一緒に出かけたショップで夜空がちょっと目を止めたりすると直ぐに買おうとする。夜空には迷惑なのだ。星也はそのお金がどのような仕事で得たものなのかを語ったことがない。夜空はわだかまりを感じている。以前も、星也の背広をハンガーに掛けようとしたとき、間違って落としてしまい、床に名刺入れの中身が散らばったことがあった。星也が慌てて集めていたが、その名も全く知らない他人の名前だった。星也の背中が急に遠ざかっていくようだった。一度、夜空が星也に聞いたことがある。すると、星也は言った。
「昼の星は見えないだろう? 見えない星は見なくていいんだよ」

星也は頭がいいし、家から出ない自分と違って外で仕事をしているので社会をよく知っている。だから、大抵は星也のいうことが正しい。しかし母親の失踪の事についてだけは、星也は間違っている。夜空はそう思う。
 母親がいなくなったことが分かってから、星也は勤め先や知り合いを訪ねて警察に行方不明者届を出したようだ。そして、夜空に言ったのだった。
「おかあさんは、もう帰ってこないと思う」
「どうしてですか」
「男の人とどこかに行ってしまったんだ」
「どこかって何処ですか」
「分からないよ」
「おかあさんは帰って来ます。星也と夜空を産んだおかあさんは神様のような人です。そんな不思議なことはおかあさん以外のだれもできません。誕生日のケーキに『おめでとう』と書いてありました。私たちは子供で、おかあさんはおかあさんです。だから帰って来ます」
 星也はそれ以来二度と母親の話題を出さなかった。

 午後1時半になって星也が自室から出てきた。一眠りしてすっきりしたようだった。
 星也が洗面台で顔を洗って出てくると、キッチンテーブルの上に、ラップしたスパゲッティの皿とサラダの皿が置いてある。夜空が用意したものだ。夜空は1時間前にいつもどおり昼食を終えていた。
 星也はフォークの先でスパゲッティを巻き取っては口に運ぶ。夜空はテーブルを挟んだ対面の椅子に座って、その様子を見ている。星也が、口を動かしながら夜空に訊いた。
「それで、巾着の何がおもしろいんだい」
 すると、夜空は待っていましたとばかり横の床に片づけていた大きな紙袋から巾着をひとつ取り出し、「CHAE☆CHA」のロゴを指さした。
「ここに星があります」
 星也はもう少しで口の中のスパゲッティを吹き出すところだった。
「ほんとだ。小さな星がある。ずっと前に缶ビールを集めていたときも、星を探していたものね。でも、あの星には夜空が見つからないと言ってたよね」
「MONOの消しゴムを集めたときは夜空だけがあり星はありませんでした。缶ビールを集めたときは赤や白や金の星がありましたが夜空はありませんでした。星と夜空は一緒にあるはずなのにおかしいです」
「そうだよ。おかしいね」
 星也は大きく頷いた。
「それで、この巾着に夜空はあったかい?」
「わかりません」
 星也は黙ったままスパゲッティとサラダを食べ終えると、皿を流しで洗った。そして、また元の椅子に座って夜空を見た。
「巾着作っている人に会ってみないか」
 夜空はかぶりを振った。
 夜空は他人と話をする時、極度に緊張する。星也なら安心しているのでしゃべっても大丈夫だが、他の人には慣れることが出来ない。夜空だって他人に気に入られたいとは思っている。だからしゃべる前には微笑もうと思う。しかし、しゃべった後の失敗を思うとその恥ずかしさで微笑もうとした唇が震えてしまう。無理にでもしゃべろうとする。すると唇が変に尖ってしまって、鳥の鳴き声のようなけたたましい音が喉の奥から弾け出るのだ。人は怪訝な表情となり、夜空ははずかしさのあまり下を向く。いつも同じ失敗を繰り返す。それでも誰かと話さなければならない時がある。そのときは、微笑まないようにしている。微笑まないで話すことは、わりと簡単だ。少しどもるくらいだ。
 星也は、機会がある度何とか夜空を他人に会わせたがる。何度夜空が失敗しても気にしていない。訓練だと思っていればいいんだよと慰めるのだ。
「きっとこの巾着を作っている人はやさしい人だよ」
 夜空はかぶりを振る。かぶりを振ったが、何度か星也と同じ様な会話をしたのを思い出した。星也がこうと決めたときの執拗さは夜空が太刀打ちできるものではない。夜空にとって、この世は星也がいなければ生きていけない世界であることわかっている。星也はいつもやさしい。やさしいが、自分の意志はまげないのだ。
「巾着の星のことを訊いてごらん。夜空のことも訊いてごらん。きっと答えてくれると思うよ」
 星也は今日にでもレンタルボックスに行ってみたいと言った。
 夜空は、椅子に座ったまま上体を前後に揺らしている。口の中で「レンタルボックス」とつぶやきながら、夜空は困っていた。今日はそんな予定はなかったからだ。
「無理です。予定のないことは出来ません」
「そうか、そうだよね。予定にないことはできないよね。ところで、今日の予定は何かあるの」
「今日は食べ物の買い出しの予定があります」
「どこの店か決めているのかい」
「いつもの店。駅の傍のスーパーです」
「それってレンタルボックスが入っているところだよね」
「そういえば、そうです」
「じゃあ、買い物がてらレンタルボックスで俺が巾着を買ってやる。いいね」
 夜空の上体の揺れが静かになり、上目遣いに星也を見た。夜空はにっと笑い顔を作ってみたが、やっぱり口角が震えてしまい失敗した。うつむいて目をしばたたかせ、ついでに横目で部屋にかけてある時計を見た。
「2時30分に出かけます」夜空は無表情で言った。
 
 スーパーでの買い物を終えた夜空は、バッグを両手で持ったままレンタルボックスの入り口に立っている。バッグの中には星也に買って貰った小さな巾着も入っていた。ショップの中では先ほどから店長と星也が立ったまま何事か話している。星也が店長からもらった紙にペンを走らせている。そして、ようやくショップの入り口まで引き返してきた。
「お待ちどうさま」
 星也はそう言って夜空の手から買い物バッグを引き取った。そして巾着だけを夜空に渡した。星也は、ショップ内に目をやり店長に黙礼した。店長は慇懃に礼を返してきた。
 
 翌日の朝、キッチンテーブルの上に置かれていた星也のスマホが鳴動した。星也は、登録されていない電話番号が表示されているのを見て一瞬眉間に神経質そうな縦皺を寄らせたが、急に思いついたように立ち上がった。耳にあてたスマホに「はい、私です」と返事しながら自室に行ってしまった。
 夜空はぼんやり窓の外を眺めていた。小さなマンションだが、五階は最上階であり眺望が開けている。母親は高いところが好きだった。この窓を眺めながら夜空は母親がいなくなった理由をいくつも考えたものだ。事故に遭ったのかもしれない。さらわれたのかもしれないとも考えた。星也との折り合いが悪かったのも事実だ。あるいは自分が障害を持っているせいなのかもしれないという考えも頭に浮かんだ。
 母親の思い出はよく暴れていたことだ。酔っぱらって帰ってきた夜など、急に機嫌が悪くなり星也を叩く。中学生ぐらいになると、星也は母親に叩かれても泣かないようになり、頬を突き出して「もっと殴れ」とドスの利いた声で迫るようになった。そのくせ母親に手を出すようなことは決してなかった。そんなとき夜空は部屋の隅で耳を両手で塞ぎ縮こまっていた。母親の甲高い声が耐えられなかったのだ。でも声を全てシャットアウトできる訳ではないので、諍いが長く続いたりすると、夜空の体が震え出す。顔から血の気が引いていくのがわかる。吐き気がして、気持ちの悪い汗が体中から吹き出す。夜空の異常に気づいた二人が諍いを止めて、夜空に駆け寄ってくる。そんなことが、何度もあったのだ。
 星也と母親がよく外泊するようになったのは、星也が高校二年のころからだ。夜空は一年生で不登校になり、家にこもるようになっていた。
 でも、こうして窓を見ていると、夜景が好きだった母親の後ろ姿が懐かしく浮かんでくる。振り返ったときの笑顔。シャドウの濃い大きな目を細めて艶やかな唇で夜空に「こっちに来てみなさい。いい景色よ」と手を伸ばす母親がいた。そんな母親が、いつか玄関のドアを開けて入ってくることを夜空は願った。夜空の想像の中では、22年前と変わらない母親がベージュのスーツ姿で帰ってきて、玄関にハイヒールを脱いで部屋には入ってくるのだ。母親は微笑みながら夜空に近づく。何と声をかけたらいいのだろう。そして、母親も何というのだろうと夜空が思うと、母親の幻影は消えてしまうのだ。
 長い電話が終わったらしく、星也が自室から出てきた。
「夜空。巾着を売っている人から電話があった。巾着を実際作っている人はその人の義理のお母さんだそうだ。今腰を痛めているらしくこっちには出て来ることができないらしい」
 夜空はぽかんとして聞いていた。星也の言っている意味がつかめなかった。
「でもね、おまえが巾着をよく買っている大事なお客さんだとわかって、おまえを自宅に招待したいそうだ。俺も一緒について行くことにした。明日、2時に行くことにしたよ。予定しておいてね。場所は菊名」

 菊名駅の改札を出た直ぐのところに、中年の女性が立っていた。星也が足早にその女性に頭を下げながら近づいて行った。夜空は、騒音を遮るためのヘッドホンを頭にのせていた。
「お言葉に甘えまして、押し掛けてしまいました。昨日電話いただきました沢野です。今日は本当にありがとうございます」
 星也は後ろを振り返り夜空を手で招いた。近くまで来た夜空に対し「さあ、挨拶だ」と言った。夜空は、星也の口元を見つめ、耳から外したヘッドホンを首にかけたまま目の前の女性を上目遣いに見た。
「夜空です。こんにちは」と頭をちょこんと下げた。そして、素早くヘッドホンを耳につけなおした。
「杉本です」
 女性は晴れやかな笑顔を星也に向けた。現れた男性があまりにハンサムだったので驚いたという表情である。そして、その笑顔のままに夜空に対してちょっと首を傾げる挨拶を送った。
「電話で話した妹です。小さいときから障害があり、自分の興味のあることしか心を開きません。それで、今はまっていますのが、あなたとあなたのお義母さんがお売りになっている巾着なんです。妹が外の世界とつながりをもてることは滅多にないので、こうして厚かましく出かけてきたところです」
「いえ、こちらこそ光栄ですわ。義母も大変喜んでいて、腰さえ丈夫ならどこにも行けるのにと残念がっていました。でも、うちの巾着のどこがそんなに気に入ってくださったのか。そこが不思議ですね」
「まあ後で本人の口から答えがでると思います。どうぞ驚かないでくださいね。僕は驚きましたが」
 女性はウエーブのかかった前髪を触って星也を見上げた。
「それは楽しみですね」
 女性はそう言いながら東口出口の方へ歩みを進めた。
「お義母さんとはご一緒にお住まいですか?」
「いえ、家は片倉町です。バスで妙蓮寺まで来ますので、菊名は近いんです」

 杉本家は昭和レトロの落ち着いた作りで、老父婦だけの生活には広すぎる感があった。夜空は玄関の中に入るなり帽子を脱ぐようにヘッドホンを取って、背から下ろしたバッグにしまった。家は静かだった。夜空はそれがうれしかった。
「お義父さん、お義母さん。絵里子です。お客様をお連れしましたよ」
 女性が、家の奥の方へ声をかけた。
 廊下の奥の扉が開き、老人がこちらに来かけたが、歩むのが億劫らしく「こちらへ、どうぞこちらへ」と言ってそのまま引き返した。
 そこは使い込んだ感のある茶の間であった。老人と老婆がいた。老婆は腰をいたわってか畳に据えられた椅子に座っていた。真ん中に卓がある。星也と夜空は坪庭に面した窓側の座布団を勧められたが、あまり和室に馴染みがない二人が困惑していると、老人が「どうぞ気楽にあぐらでもかいてください」と言った。
 星也があぐらを組むと横で夜空もあぐらを組んだ。
 いつもは如才ない星也もゆったりと微笑んでいる老人夫婦を前にして、なんだかぎこちない挨拶をしてしまった。
「双子だそうですね。美男美女で仲がよくていいですね」
 老婆がそう言った。
 中年の女性が、場を盛り上げようとレンタルボックスの売れ行きがいいことなどを持ち出したが、夜空が黙ったままでいるので、気づまりな雰囲気は抜けなかった。
 夜空が上体を前後に揺らし始め目を伏せているのを見た老人が言った。
「そろそろ、私の散歩の時間だな。どうぞ気兼ねなくゆっくりしていってください。おばあさんは、あなたが来るのをとても楽しみにしていたんだよ。だから、思っていることはなんでも自由に話していいんだよ」
 老人はそういうと、部屋の隅に置いてあったディバッグを肩にかけながら部屋を出ていった。
「ここ静かです。私好きです」
 夜空が突然言葉を発した。夜空にとっては、星也以外の男の人と同じ部屋にいることだけでも緊張するのだ。そして、夜空は自分が今いかに心地よい思いでいるかを言いたかったのだ。上体を揺らすことも止めていた。
 老婆が言った。
「今日は私を訪ねて来ていただいて本当にありがとう。私が作った巾着をいっぱい買っていただいているんですってねえ。それもとってもうれしいです。それで、何か私に聞きたいことがあるの?」
 夜空は目を大きく見開いて、きょろきょろとよそ見をし始めた。首まで回して横を向いた。老婆が問いかけた相手がどこにいるのだろうかと探すような仕草だった。
 老婆がさらに訊ねた。
「あなたは私の巾着のどこが好きですか」
 夜空の顔が晴れ晴れとなった。隣に置いていたバッグからヘッドホンを取り出し、次にひとつの巾着を取り出した。夜空は、その巾着についた小さな星のマークを得意そうに示した。
 老婆と中年の女性は顔を見合わせた。
「あなた、そのマークが好きなの」老婆が訊いた。
 夜空は頷いた。そして、涼やかな声で言った。
「この星に夜空はありますか?」
「えっ?」中年の女性が自分の耳を疑うように声を発した。
 少し無言の時間が流れた。
「驚かしてすみません。妹が言おうとしていることは解説しないと他人にはわからないことです。いきなり見ず知らずのお二人に話すようなことではないのですが」と星也が声をはさんだ。
 星也は自分たちの母親が突然いなくなったこと。その時自分の不注意から社会に適応できない妹を飢えさせてしまったこと。そして、星という自分の名前と夜空という妹の名前のようにいつも一緒だと誓ったことを話した。
「妹は、22年経った今も母親が帰ってくるのを待っているんです。母と子が一緒にいないなんてあり得ないことと思っているんです。そして、いつも一緒だって言った僕も、実際は仕事があってたまに戻ってやるのが関の山で。いつも僕の帰りを待っている。だから、星を見るとどこに夜空があるかと探すのです。星と夜空がばらばらなんておかしいと思っているのです」
 星也が話している間、夜空は目をきらきらさせて部屋のあちこちを見ていた。自分の言いたいことを星也がちゃんと伝えていることがうれしかった。
 暫くして、老婆が言った。
「夜空はあるわよ」
 そして、夜空が持ってきた巾着のマーク「CHAE☆CHA」を指で示した。
「ここにあるチャエチャというのは『久枝』という私の愛称なの。星のまわりにちゃんとあるでしょう。私もあなたと同じ夜空なの」
 夜空がうれしそうな顔をした。その顔を見た星也が驚いたのだった。
 夜空が、老婆に微笑んだ。
「あなたも、夜空ですか。私は、ずっとおかあさんを待っていますが、あなたも誰かを待っていますか」
 老婆は不意を突かれたようだった。暫く自分の胸の内を探っているようだった。そして、夜空の目を見据えてはっきり言った。
「ええそう、私も遠くへ去った娘を待っています」
  

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